『愛なんて嘘』

白石一文さんの短編集を読んだので、簡単に感想を書いておきます。

全部で6編入っていました。
どのお話もシンプルに淡々と書かれています。
登場人物の孤独感がそれぞれの形で迫ってきて、何だかジーンときます。

一番印象に残ったのは、『傷痕』という物語でした。
ドキドキさせられます。

主人公は入社5年目の女性、志摩
同じ会社に勤めるエリートの恋人がいて、順調な人生を送っているように見えます。

年末に、上司である本部長宅で忘年会が行われ、志摩はうっかり酔いつぶれて翌朝まで上司宅のソファで寝てしまいました。

そして本部長に自宅近くまで車で送ってもらいます。
この時二人がかわす会話が、なかなかよいのです。

最初は酔いつぶれて恐縮しまくっている部下と、車で送る上司の会話でした。

朝まで寝込んでしまった大失態を、志摩は夫人にきちんとお詫びしたいと伝えます。
その朝、夫人に会うことはできなかったのでした。

本部長は、『人間も人生も意外なことの連続だよ、ほんとに』とつぶやきます。
この言葉は、物語の後半で具体的に明らかになっていきます。

彼の妻は、前の晩夫の部下達をもてなした後、翌朝から別の男性と海外旅行に出かけてしまっていたのでした。
それについて本部長は、『彼女も死なないためにそれこそ必死なんだと思うよ』と説明します。

この表現は白石さんらしい気がします。
死なないために恋愛(不倫)するというのは、考えたこともなかったけれど、生きていくことの困難さをとてもよく表していて感動しました。

この後志摩の自宅近くで別れる際に、志摩も読者もびっくりな話を聞かされることになります。
あまりにも突飛な話に、志摩は決断しないままその後の日々を過ごすのですが…。

ほとんど接点がなく、長く愛情を育んできたような関係ではないのに、相手の、自分と似たような孤独感を知った時、強くひかれることがあるのかもしれません。

もし現実世界で志摩のような女性を知ったとしたら、まず引きとめるでしょう。
でも読者としては、彼女の背中をぐんと押したくなります。

こんな心理状態になる小説世界は、本当に不思議です。
小説の楽しみは、ほんの束の間非現実世界を生きて、日頃は反応しない気持ちの揺れを感じることですね。

白石さんの小説は、毎回感情がとても揺さぶられます。
(もちろん、お好みがあると思いますが)


愛なんて嘘
新潮社
白石 一文

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この記事へのコメント

きっこ
2015年02月13日 11:04
気持玉をありがとうございました!
2019年07月09日 18:49
小説大好き人です。以前白石一文「ほかならぬ人へ」を読みました。全体としては左程心を動かされなかったのですが、心に残るセリフがあったのを覚えています。「運命の人だと断定できるのは」みたいな1節です。よんだのはこれだけでした。「愛~」読んでみようかな。

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